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校内宣伝を終えて教室に戻ると、かの地は別世界に変わっていた。汗と血と涙が歓声に揉まれる非常に暑苦しい世界に。 教室にセッティングされたロープで囲ってあるキスアンドファイトの舞台には、見覚えのある1年生と西洋の騎士がいた。 背筋のまっすぐに伸びた長身の黒騎士。腰まである黒髪がファンタジックでかっこいい。 思わず見とれ、誰かと見やれば。 ――きゃぁぁっ 千堂会長すてきぃ!―― ――千堂先輩かっけぇ!―― なるほど。騒がれるだけのことはある。千堂め、美形に磨きがかかっているじゃないか。 対する一年は。 「ぎゃあぁ! なんで千堂先輩なんッスか!?」 どうやらくじで対戦相手を決めた直後らしい。 ロープの内側でそう絶叫したのは、俺もよく見知っている奴だった。正確には俺が志賀千波だった頃に見知った奴だ。 「新垣(あらがき)、大当たりじゃねぇか!」 友人らしき奴らからヤジが飛ぶ。 「そういうなら代わってやるよッ! ひぃぃ。先輩、まさかマジで俺の未開拓の唇を狙う気じゃないッスよね!?」 半涙目で懇願する新垣。周囲から「よ! ドーテー!」「初キッスは部長!」「熱いの頼みます!」と声援が上がる。千堂を「部長」というからには空手部の奴らなのだろう。 本気で怯える新垣。ゴツいけど可愛いんだよなぁ。いじりたくなる奴なんだよ。 「可愛い後輩相手だ。真剣に相手してやるさ」 に、と笑う千堂はたいへんクールでかっこいい。 「そんなぁッ 真田先輩目当てで来たのになんでこんなことに!」 俺? 千堂の笑みの種類が変わり、険しいものになる。 「……お前、零狙いだと?」 低く地の底から響くような質問。嫉妬に怒る千堂に怯えながら新垣は、そうッスよ、とあっさり認める。 「だって真田先輩って千波さんに似てるッスもん! カッコよすぎてもぉメロメロッスよ!」 言っているうちに段々気持ちが高揚してきたらしく、最後にはにぱ、と笑った。まるで犬っころのような奴だ。 「そういえば最近道場で千波さんを見かけないんスけど、どうしたのか先輩知ってるッスか?」 そう。新垣は俺の家の道場に通って来ているので、俺の後輩でもあるのだ。 新垣の言葉に千波の姿が浮かんだ。そりゃあ千波は空手なんかやらないだろうなぁ。部屋とか千波風にカスタマイズされているに違いない。俺が寮の部屋にあったぬいぐるみをダンベルに変え、レースのベッドを畳に変えたように。 「さぁな。アレでも女だ。女に目覚めて汗臭い武道はやめたんじゃないのか? 今頃スカートをはいて女友達とショッピングしていたりな」 正解だ。なぜ俺が知ってるかって。さっき千波から『凛瑚さんとウィンドウショッピングしてます(>_<)パフェも食べたのv』とメールが入ったからだ。 凛瑚って。千波、お前なんだってあのお蝶夫人もどきとそんなに仲良しになってるんだよ。 「ショッピングってスポーツ用品店か武道具店ッスかねぇ? 声をかけてくれれば荷物持ちでも何でもお付き合いするのに」 唇を尖らす犬っころ。つーかたとえ一緒に買い物に行ったとしても荷物持ちなんかやらせないぞ。荷物持ちだって修行の内。他人にさせられるわけがない。 話題を変えるように千堂がニヤリと笑う。 「今は千波のことじゃないだろう、新垣? 先輩として、キスの仕方を教えてやろう」 完全に悪のりしてやがる。気持ちはわかる。だって面白いもん。 「ぎゃあぁッ! ストップストップ! ていうか、まずはクイズじゃないんスか!? どうぞ、まずは問題を!!」 俺たちのクラスは「クイズ、キスだけじゃイヤ」だ。キスの前にはクイズがある。当たればご褒美のキス。外れたらもちろんご褒美はなしだ。 新垣は、明らかにクイズを間違える気満々だが。 千堂が「そうだな」と真面目な顔になり、おもむろに出題する。 「問題。俺の下の名前を答えろ」 「それ、クイズじゃねぇぇぇ!!」 新垣の絶叫に周囲は大爆笑だ。まず生徒会長の名前を知らない奴は、この学園で皆無だ。さらに、新垣にとって千堂は部活の部長で、その上同じ道場に通っている仲間でもある。その下の名前を知らないわけがない。 「おい。早く答えろよ。そんなに道場で鍛えて欲しいのか?」 あきれた顔で脅迫してくる千堂に、青ざめる新垣。周りの空手部員と思われる奴らが囃し立てる。 「早く言っちまえよ!」 「いつも名前見てるだろ!」 「最初は「た」!」 「次は「け」!」 「お前ら、マジ俺の友達かよ!?」 半泣きの新垣に、楽しい友人たちは笑い死に寸前だ。そんな後輩に止めを刺す。 「後がつかえてるだろ。3秒で言え。言わなきゃ道場に沈める。3、2」 「あああああ、た、武信先輩ですッ!!」 脅迫に屈した後輩に、よく言った、とにっこり微笑む千堂。そしてずんずんと近寄っていく。 「ぎゃあぁぁぁぁぁッ!! 先輩ストップ! 審判! 審判いないの!? 棄権! お願い棄権させて! 審判!?」 千堂に首根っこをがっしり掴まれ、必死の形相で逃れようとする新垣。周囲からはどっと笑いが起こる。申し訳ないが俺も笑う。 相手が千堂じゃなかったら新垣も戦って逃げるんだろう。だが、相手が千堂じゃ新垣には勝ち目がない。実力がそれほど違う。 果たして。 頭をむんずと押さえつけられ、ぶちゅうぅぅ、と音がしそうなくらい濃厚なキスをかまされている新垣の姿があった。目を白黒させ、必死で逃れようとしている動きも笑いを誘う。 「良かったな。これでお前も経験者だ」 悪魔のように微笑む千堂サマ。 「ぁぁぁぁぁ……。千波さんと初キッスをするために取っておいたのに……ッ」 「そうかそうか。ならなおさら良かったじゃないか。千波とのキスなんて待ってたらお前、死ぬぜ。一生無理だろうからな」 「ヒドいッス! 鬼! 悪魔! 鬼畜!」 「ほぉ。今日の部活が楽しみだなぁ、新垣」 「ヒィィっ スンマセン! 嘘ッス! 先輩との熱いキッスは一生忘れません! ちょーうれしーッス! あざーっした!」 爆笑の中、青ざめた顔の新垣がロープの内から出てきた。 俺はゆっくりと、仲間たちに遊ばれている弟弟子に近寄った。 正面に立ち、俺よりもうんと高い位置にある顔を見上げて笑いかけると、新垣の青ざめた顔がぱっと輝く。 「さ、真田先輩!」 「よぉ。災難だったな。悪いが笑ってしまったが」 途端に情けない顔になる。小声で、後方でこっちを見ている千堂を気にしながら言った。 「マジ悪魔ッスよ、あのひと! 俺の純潔を鼻で笑いやがったッス! 俺の繊細なハートは木っ端にブレイクしたッス!」 撫でて撫でて、と言われているようで、いつものように自然に新垣の頭を撫でていた。 そのしぐさにきょとんとした新垣だったが、すぐににへ、と顔をゆるめた。 「真田先輩、やっぱり俺の大好きなひとにそっくりッス。めっちゃカッコいいんスけど、めっちゃきれいなひとなんス。外見もなんスけど、中身も。だから俺、真田先輩も好きッス」 新垣よ。それは中身が元志賀千波の俺じゃなかったら、殴られても文句言えない程度に無神経な告白だからな。 それはどうも、と答えると、新垣が萎み始めた。 「あぁぁ。俺のファーストキスは千堂先輩……」 思い出してしまったらしい。それなりに哀れだ。 「元気出せよ。カウントしたくないキスは数に入れきゃいいんだよ。だいたい、既に親に初キス奪われてる奴だっているんだぜ。初キスだなんだってカウントするだけ無意味さ。そんなもん、カウントしたいキスだけカウントすればいいのさ」 ちなみに親に初キス奪われてるのは千堂だ。あそこのおばさん純日本人なのにキスが好きなんだよ。俺も何度かキスをねだられたもんだ。頬で勘弁してもらったが。 「でも千堂先輩の唇の感触がぁ」 仕方のない奴だ。 つま先立ちで唇を合わせる。 周囲からは悲鳴が上がった。 唇をすぐに離すと、目を合わせてに、と笑いかける。 「野郎ふたりにキスされたらもう初キスだなんだって気にしないだろ」 固まっていた新垣だったが直後、まるで茹でたかのように全身を赤く染めた。うわ。正直キモいぞ。 周囲は大絶叫。傍にいた詩英に「なにやってんだよッ!!」と胸ぐらを掴まれ頭をガクガク揺さぶられた。うおい。気分悪くなりそうなんだが。 「真田先輩ッ 俺、一生忘れないッスから!」 いや、野郎とのキスなんざほどほどのところで忘れとけ。 ――真田先輩! 俺にも口づけを!―― ――いやぁっ 零お兄さまの唇が野獣にッ!!―― ――許すまじ!―― ――羨ましすぎる!!―― 聖徳太子じゃないんだから騒がしい周囲の言葉は聞き取れない。ただ野太い声と、声変わりはどうしたと聞きたくなるような黄色い声が頭に響いた。 うるせぇっ、と一喝しようとしたとき、背後からひょいと抱え上げられた。腰と膝の裏に感じる逞しい腕。その持ち主は。 「なにしてんだ、千堂?」 まんまファンタジーの世界の美貌の騎士サマになっている千堂が、むっつりとした顔で俺を睨み据えている。なぁに怒ってるんだっつの。 怒ってるというよりどこか拗ねた感じの千堂に、ちょっと笑いを提供してやろうとイタズラ心を刺激されたもんだから。 「いやん、騎士サマ。ちょっとだけよん」 腰の近くまで入ったスリットをぴら、とめくり、太ももと下着をチラリズムしてみた。俺的にはキモいことこの上ない、爆笑ものな捨て身の恥技。のつもりだったんだが。 ――ブッ―― ――み、ミネフジコ……!―― 瞬時に教室の色彩が赤く染まった。こっちを見てた奴の大半が茹で蛸な上、何人かは真っ赤な液体が鼻から流れているのが見えたからだ。 笑いをこらえてんのか、はたまたさっきの千堂VS新垣の一方的な戦いに興奮したのか。待て待て。あの戦いっつーかキスに興奮するのはちょっといくらなんでもどうなんだ。 訝しむ俺に、千堂は憤怒の声を上げた。 「この、馬鹿がッ!!」 黒いマントをはためかし、千堂は俺を抱えて教室を走り出た。 あれ。次は千堂と宣伝だったか? これも演出か! と思い込んだ俺は、千堂の首にしっかり掴まり、周囲には手を振ってアピールして見せた。なぜか大歓声が起こる。 後日の校内新聞の一面だ。 『女王陛下と近衛騎士が駆け落ち!? どうなる白煌王国!!』 腹がよじれるくらい笑ったことは言うまでもない。 祭月の熱闘4へ |
うわ~!零さまってば無自覚な所が恐いですわ~!周りの苦労が忍ばれますね!(笑)
あと、零さまが指名されて戦っているお姿も拝見したいです~!きっと相手が可愛い子で、ちゅっとかしちゃうんだ~っ!うわ~、妄想が止まらない~っ!
【2007/07/10 03:51】
URL | はるはる #-[ 編集]
いやー!騎士さまだって!かっこいい><
腰まである黒髪!?やー!なんかすごいかっこいいの想像してます! は、はやく続きを・・・・はあはあ
【2007/07/10 19:29】
URL | るいるい #-[ 編集]
はるはるさん
ご感想ありがとうございますv やりますね、零なら!「可愛いなぁ。ちゅっ」と! 眼に浮かびますね。歯軋りする詩英、無表情になる千堂、笑顔でキレてる殿村(笑) さて、零さま戦はどうなるのか。楽しみにしていてくださいvvこれからも応援よろしくですvv るいるいさま ご感想ありがとうございますvv 奴は相当かっこいいと思いますよ!!あぁ、誰か描いてくれないかしら、とか思うくらい私の中のナイト千堂はかっこいいです!! 頑張って続き書きます!応援よろしくお願いしますvv
【2007/08/20 00:56】
URL | 緒実 #-[ 編集]
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